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著者:江戸人文研究会, 善養寺 ススム
出版社:廣済堂出版
サイズ:単行本
ISBN-10:4331516938
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キリスト教美術―スペイン・ロマネスクを中心に― AKIRA KATSUMINE

現役時代は商社マンでした。
その後スペイン・ロマネスクを究めるべく日々研鑽。
70歳代に『イスパニア・ロマネスク美術』(2008年)、
『神の美術ーイスパニア・ロマネスクの世界』(2011年)刊行。
11年超のヤフーブログからこちらへ引っ越しました。
2020年以降は本人の遺志を継いで、これまで書き溜められた原稿や講演録から随時更新していきます。(管理人)

ロマネスクの切手 
 

 

 


ナバラ州レイレLeyreは、ハカJacaの近くです。

 

なんといってもここの目玉は地下祭室で、上部の後陣穹窿の総重量を支えるため、太く短い支柱と円柱が林立しています。(切手:上段右)

 

仕組まれたとしかいいようのない柱頭が、このような真っ暗な地下祭室にあるのです。

 

何故このように目線より低い位置にわざわざ巨大な柱頭を取り付けそれに彫刻までしたのでしょうか。

 

不必要な装飾を拒むシトー派の修道院としては、理解に苦しむ謎といわざるをえません。

 

そのために実見しようと来たのですが、もう一つこれといった明確な理由が分かりませんでした。

レイレはフランスからの巡礼路の二つが一緒になる地点からそれほど遠くない開けたところにあります。

 

訪れる人も多いこの修道院の歴史は、プレロマネスク時代9世紀、ナバラ王朝Sancho El Mayor王の時代に始まり、1057年になって漸く聖別されたのですが、圧倒的な重量感を伴うマッス性が特徴でもある、ローマ的な初期キリスト教建築の影響をうけています。

 

聖堂は3廊・3祭室のバシリカ様式ですが、時代の趨勢には逆らえず、14世紀には西正面を除きゴシック様式への改修が行われました。

 

しかし地下祭室だけは後陣の総重量を支えて昔の姿をとどめています。

 

3祭室の下部に相応する形で3つの区分と、もう一つ中央区画が追加されて計4区画に分けられています。

 

2本の支柱と8本の円柱が全重量を支えているわけですが、そのいくつかに巨大な柱頭が嵌め込まれ、それぞれ線estrías、球根bulbos、渦巻きvolutasなどの単純な模様の彫刻が目線よりやや下に展開しています。

推定の域を出ませんが、柱頭を用いたのは過剰な加重に対して建築上の視覚力学的な安定感を求めたこと、それに彫刻まで施したのは(それも建築後数年経ってから)「空白への忌避感」の故であったのではないかと思っています。

なお正面玄関のタンパンには、初期ロマネスク美術の貴重な彫り物-「荘厳のキリスト」が、右に聖ペテロ、左に聖ヨハネをともなって主宰しています。

 

ナバラのキリスト教美術の希少な遺産といえます。

 

 

 


(勝峰昭執筆2009630日)

_______________________

FIN

(次回2022.04.22更新予定)

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ロマネスクの切手




 


マドリードに二回に分けて10年ほど仕事で駐在していた身にはトレドは何度も訪れたところであったが、当時はロマネスクの「ロ」の字もまだ始まっていなかった。

 

トレドの唯一のロマネスク教会 San Románを訪ねたのは2010年。

 

街の中心から街の無料ガイドが集団を引き連れて歩いて行ってくれた。

 

参加者はスペインの各地方や南米からの観光客だった。

 

国籍の様々な旅人との会話を楽しみながらの町歩きもまた格別な時間だった。

 

市の西側にあった、その教会はムデハル様式を改修したものだった。

 

ビシゴド時代の遺物の展示コーナーがあり、特にベルトのバックルが数多くいい状態で保存されていた。

 

壁面全体にフランコ・ロマネスク風の淡い色彩の聖人画が比較的鮮明に残っていた。

 

このあと、

Mezquita Cristo de la lug

Santo Tomé

Sinagoga

これらを一緒に訪ねたあと、集団と別れた。

 

三晩ほど滞在していたパラドールの部屋からは正面に大聖堂、Alcazar

そしてTajo川は東西に流れて眼下に見えても流音はない。
 

この眺めの秀逸さと晴天に恵まれたこと、相変わらずのトレドの賑わいも、マドリードとの往復のドライブもすべて心地よかった。

 

写真は、トレドの聖具sacristíaのショップで購入したロマネスクの切手です。

 

 

  (切手に添付されていた説明文)
 

 

21.ロマネスク美術

ロマネスク美術はキリスト教ヨーロッパにおいて生まれ、11〜13世紀に広まった。

それは、ローマ、ビザンチンとその各地に存在した諸要素の統合物である。

移動工房(ロンバルディア工匠たち)ぼおかげで普及し、偉大な巡礼路(サンティアゴ、ローマ)を踏破して、クリュニューのような宗教秩序の開花につながった。

イスパニアにおいては10世紀末カタルーニャに入り、とりわけサンティアゴへの様々なルートを通じて全王国に広がった。

(説明文:勝峰昭訳)

 

 

(勝峰昭 執筆2010.11.4

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FIN

(次回2022.04.12更新予定)

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三島は20代に船旅で初めての世界旅行をしています。

1957(昭和32)12月、ニューヨーク、ロスアンジェルス、サンフランシスコからマドリッド(地名は原文のまま)を訪れた回想録が『三島由紀夫紀行文集』(佐藤秀明編、岩波文庫、2018)にまとまっています。

 

旅先の体験を明晰、清新な文章にしていて、彼の青年時代の豊かで奔放な感受性が窺え、編者がおっしゃるように総じて的確で独創的です。

 

以下一部引用(原文通り)
 

<マドリッドの冬かなり寒い。―中略―ここの新年を迎えるけしきは、気候こそ寒いが、全く南国風で、スペイン女の肩掛けのかげにのぞく黒い瞳も、寒さをすっかり忘れさせてくれるのである。>

 

このように三島は繊細な感受性の一端を垣間見せてくれます。

私事ですが商社時代マドリードに1963年(当時30歳)から8年間を第一回目の駐在をしました。
 

何とも良き時代で、三島の感受性に響いただろう当時のマドリードの風景を思い出します。
 

 


  
  (手持ちの切手です)


三島はローマからニューヨークに向かい「ミュージアム・オフ・モダン・アート」を観に行って「ゲルニカ」と対面するのですが、その時の印象を次のように語っています。

少々長いですが、三島の独特なゲルニカ観を引用してみます:

 

<白と黒と灰色いて鼠がかった緑ぐらいが、ゲルニカ画中で私の記憶している色である。
 

色彩はこれほど淡泊であり、画面の印象はむしろ古典的である。
 

静的である。
 

何ら直接の血なまぐささは感じられない。
 

画材はもちろん阿鼻叫喚そのものだが、とらえられた苦悶の瞬間は甚だ静粛である。

希臘彫刻の「ニオペの娘」は、背中に神の矢をうけながら、その表情は甚だ静かで、湖のような苦悶の節度をたたえて、見る人の心を動かすことが却って大である。
 

ピカソは同じ効果を狙ったのであろうか?
 

「ゲルニカ」の静けさは同じものではない。

ここでは表情自体はあらわで、苦痛の歪みは極度に達しているのである。
 

その苦痛の緩和が静けさを生み出しているのである。
 

「ゲルニカ」は苦痛の詩というよりは、苦痛の不可能の領域がその画面の詩を生み出している。


一定以上の苦痛が表現不可能のものであること、どんな表情の最大限の歪みも、どんな阿鼻叫喚も、どんな訴えも、どんな涙も、どんな狂的な笑いも、その苦痛を表現するに足りないこと、人間の能力には限りがあるのに、苦痛の能力ばかりは限りも知らないものに思われること.....こういう苦痛の不可能な領域、つまり感覚や感情の表現としての苦痛の不可能な領域にひろがっている苦痛の静けさが「ゲルニカ」の静けさなのである。

この領域にむかって、画面のあらゆる種類の苦痛は、その最大限の表現を試みている。
 

その苦痛の触手を伸ばしている。
 

しかし一つとして苦痛の高みにまで達していない。
 

一人一人の苦痛は失敗している。
 

少なくとも失敗を予感している。
 

その失敗の瞬間をピカソは悉くとらえ、集大成し、あのような静けさに達したものらしい。>

 

この三島の感覚は私も共感します。

一流の文学者の独創的な寄稿文はまた格別です。

 

 

マドリードに駐在をしていた頃には何度も「ゲルニカ」を観に行きましたが、ある時親友の妹(芸大の教授)のお供で訪れた折のこと、彼女は絵の前に佇むとすぐに涙を流されたのです。
 

私はとっさに自分の感受性の無さに聊か忸怩たるものがありました。                                 


 

(勝峰昭 執筆2018.11.20


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FIN

(次回2022.04.02更新予定)

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ロマネスクの「聖性」について

 

これまで世間で「哲学と宗教」という命題は大いに議論されてきましたが「芸術と宗教」とか「聖なる芸術」という命題は、我が国において仏教関連を除き一般論として取り上げられることは少なかったように思います。

 

一方ヨーロッパでは歴史的にも文化的にもキリスト教の普及が圧倒的に大きく、一般論としても個別論としても「宗教と芸術」という命題が伝統的に深遠な命題として論じられてきました。

 

それは何よりも芸術(美術や音楽)が信仰心を向上させるためでしょう。

 

特に西欧の中世時代は、キリスト教が社会的、文化的、芸術的にも圧倒的な存在感を持っていました。

 

「聖なるもの」と異質なものであっても、それを溶かし込む魔力を持っているということもできるでしょう。

 

つまり芸術がもつそれ自体の要素(壁画、彫刻物、装飾、音楽など)が「聖堂という神の家」や「修道院回廊と云う造作」の演出効果によって宗教心(信仰心)が増幅されるからです。

 

いわゆる芸術効果とは、ロマネスク時代(1112世紀頃)には、形而上学的効果と言い換えることができるかもしれません。

 

つまり宗教的な感動と芸術的効果の相乗的な効果といえるのです。

 

(バロック時代1617世紀まで来ると魔術的で行き過ぎることもあります。)

 

信仰心を高めるために、キリスト教教義を人々の感性と理性に働きかけるための最高の芸術ともいえるでしょう。

 

他方「芸術と宗教」という命題を考えるとき、忘却できないことは「典礼と芸術」の関連でしょう。

 

つまり祭祁の持つ芸術との関連については改めて申し上げるまでもないでしょう。

 

有史以前の呪術における仮面の効用がその典型例で、イマージュは祖霊の祭祁に欠くことのできないものでした。

 

「ロマネスクの聖性」という観点から私たちが留意すべきはロマネスク美術への私たちの視線の問題です。

 

この美術に打たれた感動的な出会いからずっと感じてきたのは、この美術はいつも自分の方を向いているという感覚です。

 

つまり現代美術を観るような感覚とは全く異なり、その反対なのです。

 

神に見られている、自分に迫ってくるという感覚とでもいえましょうか。

 

大げさに言えば、煉獄purgatorioにいる自分というか、最後の審判を待つ自分、地獄に行くかもしれない恐れかもしれません。




(柳宗玄『ロマネスク彫刻の形態学』八坂書房、2006より)

 

この感覚はこの時代の信者(大半が百姓)にとって、恐ろしい美術、教育される自分、道徳的で“してはならぬ”ことを教えられるものだったと推察されます。

 

私たちはロマネスク美術を現場で見るときは、受け身に、それぞれの要素が何を語りかけてくるか、耳を澄まして悟性を研ぎ澄まして対したい。

 

聖性をもつ美術とはそういったものだからです。

 

                         

(勝峰昭 執筆2016.04.21


_______________________

FIN

(次回2022.03.22更新予定)

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ロマネスクに表象される「煉獄Purgatorio

キリスト教(カトリック)で、人間の死後の魂が「最後の審判」で、天国か地獄に行くのかが決まる前に一時的にとどまる場所のことを「煉獄」(西語でPurgatorio、ラテン語でPurgatorium)といっています。

通俗的に言えば魂の最後の審判前の「待合室」みたいな処でしょう。

この場所に憩っている魂の一群をロマネスク的手法で柱頭として彫り込んだ、極めて珍しい例がブルゴスの教会La iglesia de Fuente Úrbel , Burgos)の後陣のアーチに存在します。

私はロマネスク美術に親しむようになってからずっと、聖堂の外壁や柱頭に浮かぶ「首」(一つだけの首や集団の首)に非常に惹かれるものを感じ、自分でも不思議に思っていました。

修道士たちが修道院聖堂において集団で瞑想に耽っている姿にもみえますが。

 

自分なりに探ってみると、どうやらこれらの首は死の世界に彷徨し、煉獄にいて、天国に行く日を待ち望んでいる姿ではないかと思うようになりました。



Enciclopedia del Románico より)

 

魂は押し合いへし合い詰め込まれ、一見腹ばいになり、迫りくる運命の審判を前にして、不貞腐れたように口を一文字に閉じ、一様にあきらめ顔をしているかのようです。

 

これらは魂の擬人像なので、面構えには男女の別や個性が感じられません。

 

こういった客観性、写実性から離れて、しかも芸術家の主観的想念から生まれた造形を「仮象apariencia ilusional」(イスパニア語は筆者による造語)といいます。

 

つまり私が講演や著書などでいう<主観と客観の中間にある幻想的造形>といえましょう。

 

イスパニア・ロマネスク彫刻や絵画の領域には、このような幻を見ているような神秘な図像がたくさん現れ、観る人を見えざる世界に招き入れます。

 

またぎょっとするような軽い驚きを感じさせる意図的造形もあります。

 

もし「仮象」と云うものが、いま私たちの現代社会に無いとすれば一体どういうことになるでしょう?―映画、演劇、文楽、文学など仮象がちりばめられた世界が、私たちの目の前からすっかり消えてなくなるでしょう。

 

如何なる人といえども、この宇宙の無限の広大さ、その中に占める我々人間の矮小さは、目を覆いたく程の事実であることを否定できないのではないでしょうか。

 

全能の救済の神の存在を信じて、上記の如く煉獄に休息している亡くなった修道士たちのように、神の裁きを静かに瞑目して待てる境遇を生存している修道士たちも待ち望んだのでしょう。

 

この構図は、それそれらの修道士たちがおそらく実際に仕事をした工匠たちに依頼したものだと思います。


 

勝峰昭執筆2019.08.05

 

 

 

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FIN

次回2022.03.12更新予定

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各地域において大聖堂を建設するということはその地域にとって、またロマネスク時代1112世紀の政治・社会的背景から見て、巨大な資金と労働力、それに諸般の知識を集約する一大プロジェクトであったと云えるでしょう。

スペインにおけるロマネスク大聖堂についてほんの一部分ですが、今回三回に分けて話してきました。

 

大聖堂の建設は意志決定の図式が明確でなければなりません。

 

つまり王朝とカトリック・ヒエラルヒーの一致した意志の存在が必要です。

 

極めて傑出した師匠のイニシャティブ(設計施工能力)とその規模を賄う資金調達が必要かつ絶対条件となったのです。

 

それでも困難に遭遇した一例を挙げれば、レオン王朝のフェルナンドⅡ世は、1160-62 Ciudad Rodrigo大聖堂の建設師匠としてBenito Sánchezに委嘱し、かの著名なMateo師匠(写真)に同条件で、使徒サンティアゴのバシリカ部分を任せました。


陶里 第30集 嵯峨野小レンゲ 55523-480

 


旧教会の再利用を図ったものの半壊状態で、しかも信徒たちを収容する規模を満たさず、他の地の大聖堂に引けをとらぬ規模にしたいとの思いから、必要資金集めに奔走しました。

が十分でなく、聖職手当のみならず自らの私財をも抛ち、何とか完成させたとの記録があります。

 

 

 

さて、今回の参考図書2004年に刊行されたIsabel Frontón Simón, F.Javier Pérez Carrasco共著Catedrales RománicasJaguar出版、は332頁の中に既述の全ての25大聖堂を、あるものは平面図を添えて、それぞれの特徴的な固有な立体写真などを載せながら、平易に解説したもので、イスパニア文科省の図書出版総局の補助金が支弁されています。

(拙著『イスパニア・ロマネスク美術』光陽出版社、2008年もスペイン文化省のバルタサール・グラシアン基金より助成いただき感謝しております。)



 

 

 


教皇ベネディクト十六世20092010年の一般謁見の中の連続講和で、「キリスト教中世ヨーロッパの大聖堂」の回があります。

 

<ロマネスク様式の力強さと、ゴシックの大聖堂の輝きは次のことを思い起こさせてくれます。

すなわち、「美の道(via pulchritudinis)」は神の神秘に近づくための特別かつ魅力的な道だということです。>

 

(『中世の神学者』教皇ベネディクト十六世、ペトロ文庫、2011



(勝峰昭執筆2018.05.26









 

     Gerona (Cataluña) , 2007, KK

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FIN

(次回2022.03.02更新予定)

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大聖堂の建設を意欲的に促進、可能ならしめたもう一つの理由は、「レコンキスタの進展」だと思います。

 

その兵站路またカトリック道(芸術の道)となったのが「サンティアゴ巡礼路」で、この幹線道路は1112世紀に亘るキリスト教社会、文化、経済の活性化をもたらしたのみならず、ロマネスク大聖堂の建造へ大きなインパクトを与えました-ハカ、パンプローナ、ブルゴス、レオン、アストルガ、コンポステラなど巡礼路の諸都市にはロマネスク様式を備えた大聖堂が建造されたのです。

ゴシックへの移行はこれらの聖堂のロマネスク的造形を払拭することになり、現在ではある程度の形跡を留めているに過ぎません。

 

正しく経済学者シュンペーターがその著書『経済発展の理論』で云ったように、時代は無情なもので「創造的破壊」を行うものです。






 レオン大聖堂(3写真とも‟CATEDRAL DE LEÓN LAS VIDRIERAS” Edilesaより)

 





(レオン大聖堂は外からはゴシック様式の聳え立つ存在感に、聖堂内に入るとステンドグラスの美しさに圧倒されます)




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(ステンドグラスの一部にロマネスク様式が残されています)



留意すべきは、11世紀の教皇グレゴリオ改革(グレゴリオⅦ、10731085)により、キリスト教会の腐敗による暗黒時代を抜けだし、聖職者叙任権を王朝から教皇に取り戻し、修道院でも「ベネディクト戒律」に基づく規律の回復を通じて所謂「神の平和」の時代が訪れようとしていました。

 

12世紀はこの意味で時代を画するキリスト教の興隆期をもたらす節目の時代でした。

イスパニアは漸くコヤンサ公会議(1055)の決議で、四つの司教区Diocesanaに分割(cuatro provincias ecclesásticas:サンティアゴ、トレド、タラゴナ及びブラガ)、つまりイベリア半島の四王朝(レオン、カスティーリャ、アラゴン-カタルーニャおよびポルトガル)に相応、これに13世紀末にはセビーリャが加わり、五つの司教区となり、1953年教皇庁との宗教協約発効まで継続します。

 

常識的には、イスパニアのロマネスク美術の温床は修道院、中でも大修道院であると認識されてきました。

 

しかしこれは一面的で、少なくとも11世紀においては大聖堂がより先駆的役割を果たしたと思えます (X.Barral i Altetの判断)

 

しからば何故こういった認識不足が生まれたのでしょうか。

 

参考図書Catedrales Románicasによれば、それはイスパニアの歴史学者の無能の所為であると極論しています。

 

  

さらに大聖堂が後に巨大なゴシック様式に衣替えしたときに、無理矢理ロマネスクの痕跡が取り去られたことに起因します。

 

しかし当初の初動的なロマネスク美術導入の先駆けは、間違いなく大聖堂であったことに我々は再度留意すべきでだと思います。



 

 



           La Catedral la Siguenza, 2017, KK

 

しかしながら修道院は、同時並行的にまた永続的に大聖堂の変革後も、一貫してロマネスク美術を守ってきたといえます。

 

またシトー派の華美な装飾に対する否定的態度も、過去のものを払拭・破壊するのではなく、自らが新たな修道院建設時に自らの宗教信条にしたがい心したことで、田舎や人里離れた処に初期-盛期中世時代に建設された数多くの修道院のロマネスク的要素の秘めやかにして馥郁たる霊的存在と、華やかで壮大なゴシック大聖堂を対比することはあまり意味がないことでしょう。

 

 

 

(勝峰昭執筆2018.05.26

 

 

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FIN

(続きは次回2022.02.22更新予定)

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大聖堂Catedralとは、大小さまざまな教会堂の中でもモニュメンタルな偉容、規模と格式(大司教や司教の存在)をもつ聖堂のことを言います。

 

語源的にはcatedra(高位聖職者の地位)ラテン語由来です。

 

一般的には「大聖堂」と云えば、ゴシック様式の所謂巨大な大聖堂を思い浮かべますが、ロマネスク大聖堂も各地に散在します。

 

創建当初のロマネスク様式に、ゴシックや一部バロック的な様式も加わり増改築や修復が為されたものがほとんどで、元のロマネスク様式の造形が随所にみられます。








       La Catedral de Lérida, 2017, KK

 




このような大聖堂は都市の象徴的存在であり、そこでは宗教的行事や典礼、信者共同体の催事、会合など、住民たちに私的目的のために幅広く場を与えました。

 

ある程度人口がまとまり司教が常在すべき都市に建設されるのが常です。

 

イスパニア・ロマネスク大聖堂と云われるものは25あります*

 

* Isabel Frontón Simón / F.Javier Pérez Carrasco共著  

 Catedrales Románicas de EspañaJaguar , 2004

 

 カタルーニャ: 6

 ビック

セオ・デ・ウルジェイ

ソルソナ

ヘロナ 

タラゴナ

レイダ

 

 アラゴン  3

    ロダ・デ・イサベナ

ハカ

サラゴサ

 

 ナバラ、リオハ、アストゥリアス: 3

    パンプローナ

サント・ドミンゴ・デ・ラ・カルサーダ

オビエド

 

 カスティーリャ: 9

    サモラ

サラマンカ

シウダ-・ロドリーゴ

ブルゴ・デ・オスマ

シグエンサ

ブルゴス

パレンシア

レオン

アストルガ

 

 ガリシア: 4

    ルーゴ

オレンセ

トゥイ

サンティアゴ・デ・コンポステラ

 
 

当時の宗教施設(教会や修道院)創設に対する需要は想像を絶するものでした。

 

こういった状況を勘案すると、一つの大聖堂建設に数世紀を要したこともあったという歴史的事実は頷けます。

 

このような莫大な資源を要する大聖堂の建設は、必然的にそれらを調達可能にする後背地、都市の存在が欠かせません。

 

都市といっても今とは違い、一部の建物を除き当時は狭い路地が錯綜し、みすぼらしい家屋が軒を並べる大きめの集落だったと考えられます。

 

 

 

大聖堂群の中には、Roda de Isábenaのように、辺鄙なところに存在するものもありますが、それは偏に王朝による政治的・地政学的要請に基づく戦略的志向が立地を決めたのです。

 

とはいえ大聖堂は都市の中央部にあってその象徴であり、司教の主宰するキリスト教権威の拠点でもありまた芸術的なモニュメントでもありました。

 

この二元性は、キリスト教美術を探求するものにとって、最大の関心事となるのは当然なことです。

 

大聖堂は、祝祭や催事の場所でもあり、そしてなによりも人々の精神的な拠り所であったと云えるでしょう。

 

 

論文「イスパニアのロマネスク大聖堂―その存在理由と背景について」20117月に書きました。

 

今回はその冒頭の一部をとりだしました。

 

今月はイスパニア・ロマネスク大聖堂の存在の概要を3回に分けて述べたいと思います。

 

(勝峰昭執筆2018.05.26








  
 La Catedral de Lérida, 2017, KK



 

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FIN

(続きは次回2022.02.12更新予定)

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Museu Frederic Mares i Deulovol, Barcelona



 

 

ここのぞっとする感覚はどこから来るのでしょうか。

 

フレデリック・マレス美術館から外へ出たとき、それは多くのキリスト磔刑像、聖母マリア像などのロマネスク像から発するこの世ならざる神秘的で崇高な気配に圧倒されたからだと気づきました。

 

ご承知のように、イスパニア・ロマネスク美術には新約聖書から受ける「愛の投射」的な作品はほとんどありません。

 

この美術館のおびただしい数の像たちは、峻厳な贖罪の神の死にゆく姿に加え、慈愛の聖母子像の類ではなく来たるべき最愛の神の子の悲しい運命を洞察し耐える母の悲哀の像なのです。

 

ここではこの美術館に蔵された聖母子像を三つだけ載せましょう:

 

 










    

 

 

 

最後の聖母子像だけが13世紀のもので、解説には「Curiosa imagen de la Virgen(聖母の変わった像)と記されています。

別のアングルからの写真です↓





 

私の見解ではこの木像はおそらく13世紀初頭~中頃の作品で、彫りはロマネスク時代の手法を色濃く残しており(直線的なざっくりとしたbisel斜彫手法)、

ただ容貌だけが新時代であるゴシックの到来を思わせる微かな優しさが写実の匂いを発散させています。

 

バルセロナとその近郊にはヨーロッパでも最も秀逸なロマネスク美術の分野―絵画(壁画と板絵)-を国立カタルーニャ美術館MNACで観ることができるのは言うまでもありませんが、

通として訪れるべきは、この美術館とバルセロナの北方(
Tibidabo山の向こう側)のSant Cugat de les Valles修道院の回廊でしょうね。

 

後者はバルセロナ広場の地下から電車で20分ぐらい北に行った郊外の同名の駅で降りて、西の方に15分ぐらい歩くと着きます、

新しく開けた住宅地で静かなところで、ロマネスク様式の回廊は圧巻です。

 

 

(勝峰昭執筆2017.07.20



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この美術館から徒歩圏内の
市内に残るロマネスク様式の教会です⤵︎


 

 

 

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FIN

次回2022.02.02更新予定

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Museu Frederic Mares i Deulovol, Barcelona

 

掲題の「通」は“つう”と読んでください。

 

カタルーニャ・ロマネスク美術に興味を抱きバルセロナ行かれる方にお勧めしたいのは、このフレデリック・マレス美術館です。





 

旧市街中心部にある大聖堂の傍らの広場に面しています。

 

イスパニアの地で、美術館に入館した途端にぞっとする感覚に襲われるのは、おそらくこの美術館だけでしょう。

 

 

ここの創設者フレデリック・マレスは入り口にカタラン語とカスティーリャ語を併記して訪問者に語りかけています:



 

   

*** *** *** ****

この中世の高貴な一隅、

そこは古の吾が王朝の宮殿だったところ、

そこで私がこれまで集めてきた宝をお見せしよう。

芸術への情熱に傾けた吾が生のすべてを。

 

射し込む光はほの暗く、

人がいても沈黙が支配する

あなたは作品の中に精神を観るだろう、

時が移る中に行き来した人たちの心を。

                      

お入りください、良くいらっしゃいました

この宝はあなたのものです。

                     

フレデリック・マレス

 

(邦訳:勝峰昭)

 

*** *** *** ****




 (2012年5月訪問時の勝峰昭、Juan ANtonio Olañeta Molina氏と)



 

 

(勝峰昭執筆2017.07.20

 

 


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FIN

(美術館について続きは次回2022.01.22更新予定)

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